イラストレーター・ナガノチサトのundōとB GALLERY(BEAMS JAPAN)の個展にて、それぞれ作品集を制作。壁打ち相手として、展示の文章や空間構成もサポートした。

彼女の絵日記

チサトさんはTwitterで知り合った唯一の友人だ。2011年頃に同い年だったことがきっかけで仲良くなり、作品集を2冊つくり、展示は2回企画して、それとは別に3回お手伝いした。その度に、思えば遠くに来たもんだと話す。

どの描き手もそうだが、彼女の絵には原画にしかないよさがあるなといつも思う。チサトさんの作品は絵と短い言葉の組み合わせが特徴で、日常を描きながらも少しシュールで幻想的なイマジネーションが働いている。わたしは、彼女の描く「線」が好きだ。時期によってタッチが変わるけれど、いつも紙には無数の線の跡が残っていて、気が遠くなるほどの時間の積み重ねがある。見れば見るほど見るところがあり、ずっと眺めていられる。

彼女の展示では、若いひとが初めて作品を購入することがままある。良心的な価格にしているものの、安い買い物ではない。そこで、作品が買えなくても日常のなかで絵に触れてもらえるものをつくりたいと言われ、個展『瞬間』に合わせて『Daily Calendar』をつくることにした。作品と生活用品(雑貨)の間を目指して、31日分の絵のカードを箱に詰めた卓上カレンダーだ。海の向こうの台湾や韓国から来た人たちがよく買ってくれた。

生活の線』というタイトルは、「Life Line」という単語を目にして、生命線や命綱ではなく、とっさに「生活の線」ということばを発したのが彼女らしいなと思ったことから。無骨なドイツ製本と紙でテクスチャーの変化をつけて、あとはひたすらシンプルに。いろいろな白、線、余白、たまに光(金箔)。電車で、道で、カフェでひとを観察し、それをきっかけに自分の内側を覗き、その対話の記録を日記のように白い紙に描く。彼女の営みが感じられることを目指した。わたしは、チサトさんがどんな日も毎日夜眠りにつく前にひとり絵を描いている、ということを信頼している。結局、それだよなって。

いまでも数年に一度、展示の壁打ち相手として文章や空間構成のお手伝いをさせてもらっている。わたしがどんな質問や提案をしても、彼女はほとんど即答する。コロナ禍の新作「再生」は、初めて毎日描けなくなり、季節が巡ってまたペンを持つようになってからの軌跡だ。より繊細になった線によって陰影や奥行きが生まれ、広い世界に通じる小さな窓をこっそり覗いているようだった。生活は続く。

Photography: MATSUSAKI Kimiko

『Daily Calendar+生活の線』

作者

ナガノチサト

編集

川村庸子

アートディレクション&デザイン

小熊千佳子

英訳

Sam Holden

Special thanks

鈴木諒一

発行日

2015年9月4日、2017年11月2日

URL

ナガノチサトウェブサイト『生活の線』ページ

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