学生と一緒につくる武蔵野美術大学(ムサビ)公式広報誌。学生主体で企画・制作を行い、プロの編集者とデザイナーがサポートする体制。キャンパスの至るところに設置され、在校生の保護者や高校にも郵送された。

手を動かしながら考える

「教える」のではなく「ともにつくる」にはどうしたらいいだろう?

いつもそのことに悩んでいた。こちらに権力が生じるのは免れられない。けれど、固定された関係性からはおもしろいものは生まれないだろう。プロの意見が「正解」にならないように、どうにか力を分散させようと、同世代の編集者・民ちゃんにも参加してもらった。

まず「わたしたちは先生じゃない」ということを伝え、その上で「自分がおもしろいと思うか」を軸にmauleafだからこその企画をつくることを呼びかけた。目指すのは、ムサビ生の、ムサビ生による、リアルなムサビレポートだ。

編集部は、毎年、学年や学科を超えて10名程度。月に一度集まっては、「最近どう?」と全員が順番に話してから会議をスタートする。このときのぼやきや雑談が一人ひとりを知るのに役立ち、ときおり企画の種にもなった。一般大学出身のわたしたちには美大生のキャンパスライフが新鮮で、彼女たちにとってはフリーランスの編集者という存在が珍しく、ひと回り違う年齢差も手伝って、互いに質問ばかりしていた。それから、打ち上げでは恋愛についてもよく話し合った。「好きになったひとが今回たまたま異性だったのだと思う」「恋愛に興味がない」「異性間の友情はある」「打倒家父長制!」「何でもかんでも恋愛に結びつけるな」。そういう感覚の上で、恋や愛について「も」話がしたいよね、と。彼女たちに教わったことは、メイクだけじゃなかった。

毎回、一人ひとりが特集と連載(憧れの「OB・OGインタビュー」「サークル訪問」、学内の「気になるあの子」)のネタを出し、取材し、文体を考え、ラフを切る。おもしろいことに、慣れるまで意見が出なかったり、イメージがぼんやりしたりしているのだけれど、取材が終わると、嬉々として「これを伝えたい」「ここを見せたい」とアイデアがどんどん出てくる。たとえ会議では静かだったとしても、原稿やラフにはそのひとの考えが透けて見える。それを受けてもっとおもしろくなる方法はないか、みんなで意見を交わした。

いいと思ったことへの変更は厭わない。デッサンを通じて「見る」「描く」という行為をひたすらやってきた美大生の観察力と、手を動かしながら考える力をしばしば感じた。

特集「ムサビ生とアニメ」では、どんなアニメが好きで、そこから得たインスピレーションがどのように制作につながっているのかを探った。表紙は、著作権問題を回避するために、美大生の画力をいかした「うろ覚え」のアニメキャラクターの落書き。食堂やトイレの壁にチラシを貼って、お手本なしで描いてもらったものを集めた。

ほかにも、学科別のファッションイメージと実際のスナップ写真を集めた「ムサビファッション通信」や、学生生活のSOSと駆け込み寺を調べた「ムサビイエローページ」、噂話を史料から紐解く「ムサビのあの頃」。どれもアンケートやインタビュー、SNSでのリサーチを通して、雑多で賑やかな誌面ができた。人気の号は、あっという間に構内のラックから姿を消した。

4年間で出会った学生は42名。誰かとものをつくる楽しさが、少しでも身体に残っているといいなと思う。

『mauleaf』vol.21〜28、かわら版vol.03〜08、特別号

編集ディレクション

川村庸子、小野 民

編集

『mauleaf』学生スタッフ

アートディレクション

加藤賢策(LABORATORIES

デザイン

内田あみか[vol.21]・北岡誠吾[vol.21〜26、かわら版vol.03〜08、特別号]・和田真季[vol.24〜25、かわら版vol.07]・守谷めぐみ[vol.27〜28](LABORATORIES

印刷

株式会社アトミ

Special thanks

西 崇弘(武蔵野美術大学

発行

武蔵野美術大学

発行日

2016年1月16日、6月9日、8月20日、10月27日、2017年1月19日、6月9日、8月9日、10月26日、2018年1月16日、6月7日、8月15日、10月24日、2019年1月16日、4月1日、8月17日、10月25日

URL

武蔵野美術大学ウェブサイト『mauleaf』ページ

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